2013年10月16日水曜日

遺影


先日、ご葬儀を当社で行った方とのお話をご紹介させて頂きます。


その方は、お父様を亡くされた50代の男性です。

以下、その方のお話しです。



父は写真が趣味でした。

休日になると必ずと言っていいほどどこかへ写真を撮りに
出かけていって、一緒に遊んだ記憶がほとんどありません。

そんなある日に父が、母と私に上野動物園に行こうと言い出しました。

私は、それがとてもうれしくて、うれしくて、
前日の夜はなかなか寝付けなかったのを覚えています。

そして当日・・・

動物園につき最初は楽しく園内をまわって動物をみていましたが、
サル山のところで父が突然カメラを取り出し、サルを撮り始めました。

最初はすぐ終わると思っていたのですがなかなか終わらないので、

父に声をかけると、一言。


「お母さんと二人で回ってきなさい」


・・・・・


それから、私は母と二人で一日園内を回り、

又、サル山に行ってみると
案の定、まだ写真を撮っていました。

私が覚えている父とは、そんな父です。

そして父が亡くなって、葬儀の準備に追われている中、

遺影の準備になり父の写真を探したのですが、

父は写真を撮るのが専門で、撮られる機会が無く、

残って出てくるのは最近の病気になってからの写真でした。

その写真を安宅さんに持って行って最近の写真しかないとの事を伝えたら、


病気の時の写真という事で気にされているのであれば、
昔の写真ではいかがでしょうか? 
ずっと残る大切なご遺影です。
ましては家族葬ですので、お父様の昔を知っている方だけです。
あまり気にせずよく時間をかけてお探しになっては?
 
という返事でした。


それから実家に戻り、父の写真を探していたところ、

父の大切にしていたカメラバックをひろげてみるとそこに、

子供の私が嬉しそうに父とサル山の前で笑っている写真が見つかった。

この写真を見つけた時は家族の前にも関わらず、声を上げて泣いてしまいました。

その少しピンボケ気味の写真を遺影に決めたのは言うまでもありません。

よく探して見て本当によかった。本当にありがとう。


以上

そんな感謝のお言葉をいただきました。

一見、家族そっちのけで趣味のカメラひとすじの方のようですが、

実は一番大切にしていたのは自分の子供の写真だったようです。




遺影。

故人様を偲ぶ為の大切な物です。

以前は、黒額の黒着物のモノクロ写真が主でしたが、

最近はほとんどカラー写真を用います。

亡くなった後、家族が写真を選んだり探したりする手間を省く為や、

自分の好きな写真を残したいとの理由で、

生前に遺影を撮る事も当たり前になってきております。

しかしそこにはいろんなドラマがあり、

我々がみてもなんて事ない写真が、

今回の事のように大切な一枚の事もあります。


実は私は子供の頃の父の想い出があまりないのですが、

父に初めて映画館に連れて行ってもらって

帰りに外食をした事が

大変に嬉しかったを覚えています。


今では、私にも子供がいます。

今では映画館で映画を見るのは当たり前、

外食も当たり前の豊かな時代です。

自分が嬉しかったあの出来事なんて、

今の子供はどうなんですかね?

自分が亡くなった後、

「親父にゲーム買ってもらった事が嬉しかった」

なんて言われるんでしょうね。

しかし時間の流れるのは本当に早いですよね。

一生の中の一瞬。

そんなあっと言う間に過ぎていく時間。

一瞬一瞬を大切にしたいですね。


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